始まってしまったインボイス
騒がれるようになったのは1年前くらいですが、2年以上前からその話自体は出ていたような気がします。
1990年代、消費税という制度を始めるにあたって「小規模事業者救済」の元に免税や簡易課税といった「飴」を用意していったが、その飴は少しずつ刈り取られていきました。
たしか最初は年収 3000 万未満は免税事業者でしたよね? いまでは 1000 万未満に下げられています。インボイスに限らず、1989 年、消費税を開始時にあった優遇措置は少しずつ削り取られてきています。そのうち簡易課税もなくなるかもしれません。
年額 105 万……でしたっけ? の労働者を無理やり社会保険払わせるとか、取れるもんは取りまくろうという圧は強くなる一方、よくわからないバラまきでお茶を濁す(=票を稼ぐ)やり方は、(税をあまり払うことのない)お年寄りに向けた国家となってしまった日本の悲しい宿命なのでしょうか……。
インボイスについては仕方ないんだろうと私は思っていましたが、当然反対する人もいますよね?
私が拾い読みした記事の多くは「声優」が反対している、というものばかりでした。
なんでだろう? ちょっと疑問に思って調べてみました。
声優の年収
声優の平均推定年収は 200万(推定)だそうです。これにはおそらく消費税分の金額も含まれてしまっています。(180万+消費税18万、みたいに)
都心では家賃 8 万、光熱費・通信費 4 万、食費 3 万で切りつめても残り 20 万、さらに税金や年金で持っていかれることを考えるとほとんど何も残りません。
それでも、声優になりたい人は多いです。
つい数年前にも知り合いが「子供が声優になりたいと言ってる。どう思うか?」、と問われましたが、若い頃は夢と「自分は行ける」と思い込む無謀さが武器。好きにさせるしかないんじゃないかな? とコメントしておきましたが、そのお子さんは声優学校を卒業することなく、1年で辞めてしまいました。
それだけ現実が厳しいと言うことでしょう。
声優が収益を上げる方法
主役級の仕事をする
アニメ制作会社も基本的に冒険はしたくないので、既に人気があったり、フォロワー数の多い人を優先的に使うことが予想されるため、「新人だけど能力は高い」人が採用される可能性は思っているほど高くはないでしょう。かなりの強運(≒出資者やクリエイターのコネ)が必要になるんじゃないでしょうか。
ランクを上げる
声優には「ランク制度」が定められており、俳優の技量・キャリア・人気等に基づいて毎年日本音声製作者連盟によって決められるらしいです。
この算出方法はよくわかりませんが、元々は「素晴らしい技量やキャリアがあるのに、安月給でコキ使われる」事を正すために制定されたのだと思います。
ただ、このランクのせいで仕事が来ない、という事も十分考えられます。
若手の声優が2~3年で次々に入れ替わっていきますが、若い方がランクが低く、安いのです。
若手でも声優学校などで基礎を勉強し、声優としての表現を高めている人は多いです。
予算だけを考えれば、実力派の中堅声優より、経験はないがそこそこスキルはあり、フレッシュ(かつ、安い)若手が使われやすくなります。
余程名を挙げた声優を除き、年齢を重ねれば重ねるほど仕事のオファーが減ってしまう仕組みと言えそうです。
仕事の幅を広げる
これは声優養成学校のホームページに書いてあった内容。
耳障りのいい言葉ですが、それはすなわち「声優だけでは稼げない」という事です。
ゲームやナレーションの仕事は相場が高いですが、最初から自分でそれを選べるわけではありません。
純粋に声の仕事をしたい人には、アイドル声優(顔だし声優)なんて考えたくないでしょう。
でも現実には「広告塔として動いてくれる声優をお願いします」なんて事務所に依頼するクライアントが多くなっています。
声優はレッドオーシャン
たしかに近年のアニメ制作数は増えています。が、それよりも声優希望者の数が勝っています。
声優になれる(声優で生活できる)人はどんどん減っている、という事です。
声優志望者が多ければ、必然的に質の高い声優(の演技が出来る)人も増えるため、声優のスキルだけで上に行くことはできません。
出資者側は、選び放題なので声優としての力以外にも、ありとあらゆるスキルを声優に求めることになります。
コミュニケーション力、上の人に気に入られる、SNS で人気なこと、舞台で映えること……。
ただ「声優」になりたいだけなのに、「声優」以外の様々な能力を期待される。想像以上に厳しい環境が待っています。
収入はとても低いが、求められる能力はとても高い
多くの声優(の卵)は仕事として「割に合わない」環境にたえず身を晒しているわけです。
今回についてもおそらく税に文句が言いたいだけではなく、仕事として(多くの人が)成立していない、でもどうすることもできない。
そんな人たちの多く、年収 200 万から(数年後には)簡易課税にしても 10 万は引かれるインボイス制度に矛先を向けざるを得ないのだと思います。
声優事務所が、消費税を肩代わりする優しさがあればこんな事にはなってないはずですが、買い手市場ですからね……表向きは「インボイス非対応の人も雇うこと」とされていますが、やんわりと仕事を回してもらえずフェードアウトする未来が待っています。
声優という仕事は過酷です。職業として人気であればあるほど、多くの人がそれを生業にして生きていくのが難しい業界です。
インボイス反対の記事を見るたびに、そんなことを考えてしまいました。
声優だけで食べていける人がゼロというわけではありません。
ただ、その割合は限りなく低く、人並み以上の努力をした上で SSR 級のコネクションガチャに勝たなければならないのが現実です。